【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 俺は美桜と駆け落ちする約束をした。
 
 本当に自分は愚かだった。
 美桜も俺と同じ気持ちだと疑っていなかったし、二人で共にいられることが一番の幸せだと信じていた。

 家も何もかも捨ててでも、この恋を貫きたい。
 そのことしか頭になかった。

 早朝になるのを待って拷問部屋から抜け出した。
 美桜と初めて出会った桜の木の下で、美桜を待った。

 俺はほとんど何も持っていなかった。かろうじて携帯と財布だけで、他は何もいらなかった。
 あとは美桜さえいてくれたらよかった。

 だけど、いくら待っても美桜は来なかった。

 美桜……一体どうしたんだ? 何かあったのか?
 それともやはり俺とは一緒に行けないと思ったのだろうか。

 雨が降り出す。ポツポツと雫が落ちるだけだった雨は、あっという間にザーザーと降り注ぐ。
 びしょ濡れになりながら、それでも美桜を待ち続けた。


「若!!」


 傘を差した峰が息を切らして走ってきた。


「峰……?」
「大変だ!! さっきこの近くで事故があって……!」
「え……」
「染井の娘がトラックに撥ねられた!!」


 染井の娘って、まさか……。


「美桜じゃないよな!?」


 峰の両肩をガシッと掴んで揺らす。峰が持っていた傘が落ちる。


「美桜は!? 美桜は無事なのか!?」
「……」


 目を逸らし、肩を落とす峰。
 その表情で察してしまった。


「……っ!!」


 嘘、だろ……?

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