【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


「……消えろ」


 鬼頭はドスの効いた低い声で言った。


「今すぐ消えろ……でないと貴様をブッ殺しちまう」


 怒りと憎しみに震える鬼頭。それでも美咲の肩をしっかりと抱きしめている。


「和仁、行こう」
「………」


 峰に促され、逃げるようにその場を立ち去る。

 美桜は死んだ? 俺のせいで?

 俺があんなこと言わなければ……美桜は死なずに済んだのか……?


 ――和くん!

 ――和くん、怪我良くなった? 無茶したらダメだよ。

 ――和くん、大好き!


 土砂降りの中、人目も憚らずに叫んだ。
 どうしようもない絶望感が全身を蝕んだ。


「うわああああああああああああ」


 どうして、なんでなんだ。

 ただ美桜のことが好きで一緒にいたいだけだった。
 それだけだったのに。

 美桜がいなければ、何も意味がない。

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