【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 俺は峰と二人、当てもなく遠くへ行った。

 誰も知らない土地へ行こうと思ったが、どこへ行こうとも桜花組の名前は大きかった。


「貴様、桜花組の吉野和仁だな……? 桜花に受けた恨み、晴らしてやる!!」


 どこでも恨みを買っていたので、喧嘩を吹っかけられることは多々あった。
 そのどれもを買い、峰と二人で暴れ回った。

 俺に喧嘩を売る以外にも色んな悪人がいた。
 売春を斡旋してるやつ、詐欺で金を巻き上げるやつ、違法薬物を売り捌いてるやつ。

 そういう奴らを片っ端から潰していたら、いつの間にか俺の周りには人が集まるようになっていた。


「兄貴の漢気に惚れました。舎弟にしてくだせぇ!」


 何故かそう言ってくるやつが沢山いた。好きにしろ、とだけ答えていた。
 別に人助けをしたかったわけじゃない。薄汚い奴らが嫌いなだけだ。

 美桜を守れなかった自分に対する行き場のない気持ちを、発散しているだけなのだ。

 他にも色んなやつに出会った。
 行き場がなく帰る家がないやつ、暴れ回るしか発散できないやつ、犯罪に片足突っ込んでいたやつ。
 そのどいつも死んだ目をしていた。


「居場所がないなら一緒に来るか?」


 いつの間にか仲間は増えて、いつの間にか新進気鋭の暴走族と認識されるようになっていた。
 峰の提案で桜龍(おうりゅう)なんて仰々しい名前を名乗ることになった。


「兄貴! 俺たち兄貴にどこまでもついていきます!」
「兄貴は俺らの恩人だ」


 千原や笹部も俺が拾った中の一人だった。
 今でこそ明るく人懐っこいやつらだが、皆何かしら心に傷を抱えている。

 特に今にも死にたいと言わんばかりの目を見ると、放っておけないと思ってしまう。
 あの時の峰は、こんな気持ちだったのだろう。

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