【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
「君は、この家が嫌ではないのか?」
急に尋ねられて驚いたが、即答した。
「嫌じゃないですよ?」
「そうか……」
だってご飯も美味しいしみんな気さくで素敵な人たちばかりだし、実家よりも天国だもの。
「この家に嫁いできてよかったです」
「……ここは、君が思っているようなところじゃない」
「え?」
「いや、何でもない」
そう言って和仁さんは背を向ける。
多分今、線を引かれた。
それとなく千原さんたちが教えてくれたけど、次期組長でありながら和仁さんに結婚の意思がなかった。
でも跡取りが欲しかったお義父様が、私の父を助けることを条件にこの縁談を取り付けたらしい。多分嫁になるなら誰でもよかったんだ。
それに和仁さんは今でも結婚は望んでいない。だから私と仲良くするつもりもないんだ――。
所詮書類上だけの、お飾りの妻だなんてわかっていたはずなのに。
寂しいと感じてしまうなんて、厚かましいのかしら……。