【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
「……俺じゃなくてもいいと思うが?」
「なかなかに厄介そうなんだ。ここでお前が行くことで知らしめたい、次の桜花組を率いる者が誰なのか」
「期間は?」
「二週間だ」
「二週間!? そんなに長く家を空けたらジェシカはどうなるっ」
「舎弟を残していけば良いだろう。母さんもいるしな」
「俺は行かない。ジェシカの傍を離れない」
「和仁さん……」
「ダメだ。お前には桜花組若頭としての立場がある」
「そんなもの……!」
厳しい表情のお義父様と強く反発する和仁さん。
一気に空気がピリつき、私は思わず声をあげた。
「あのっ! 私大丈夫です!」
「ジェシカ……?」
「まだつわりが酷くないですし、大丈夫だと思います」
「でも、」
「心配しないで、和仁さん。行ってきて」
「……、何かあればすぐに連絡してくれ」
「はい」
和仁さんは納得のいかない表情だった。
九州に向かう当日まで渋っており、何度も私に大丈夫か確認した。
「兄貴、姐さんのことは俺たちにお任せください」
「本は熟読したっすから! 大丈夫っすよ!」
「千原、笹部。頼んだぞ」
「「っす!」」
和仁さんは私を抱きしめてから九州へと発った。
「行ってくる。なるべく早く帰るから」
「行ってらっしゃい」
笑顔で送り出したつもりだけど、和仁さんが行ってしまってからこっそり泣いてしまった。