【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
思わず立ち止まって見惚れていたら、なかなか来ない私を和仁さんが呼びかけた。
「疲れたのか?」
「あっ違うの。推しの尊さを噛み締めていたところで……」
「推し?」
「まま!」
鏡花ちゃんは空いている方の手を差し伸べる。
すぐに理解した私は駆け寄って鏡花ちゃんの手を握りしめた。
「ごめんね、お待たせ」
「まま、おそい〜」
「ごめん、ごめん」
「きょうか、かけっこいちばんだったの」
「すごいわ! 鏡花ちゃんは足が速いのね!」
私は運動がからっきしなんだけど、運動神経は和仁さんに似てくれたのかしら。
子どもの体力は底なしというけど、いつも元気に駆け回って千原さんたちをヘトヘトにしている。
かと思えば眠くなってしまったり。
「……ぱぱ、だっこ」
「おいで」
和仁さんに抱っこされると、うつらうつら船を漕ぎ始めていつの間にか寝息が聞こえてきた。
寝顔まで天使すぎる。
「ふふっ、ずっと張り切ってたものね」
「旅館に着く頃には起こしてやろう」
「そうね。お義父様たち待ってるでしょうし」
「で、君の手はこっちだ」
そう言って和仁さんはもう片手を差し伸べる。
こうやってさりげなくスキンシップをとってくれるところが、キュンとしてしまうポイント。
結婚して四年経っても和仁さんにドキドキしてしまう。
「はいっ」
笑顔で握りしめると、優しく微笑み返してくれた。
ああ、やっぱり私ってなんて幸せ者なのだろう……。