【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
お義母様もそう言ってくださったので一晩鏡花ちゃんをお任せすることに。
と言っても部屋は隣だし、何かあればすぐ様子を見に行けるから大丈夫よね。
「これ、鏡花の着替えです。よろしくお願いします」
「ええ、任せて。鏡花ちゃんとお泊まりできて嬉しいわぁ」
お義母様もルンルンしていた。
これも親孝行ということかしら。
私たちが泊まる部屋は、二人では広すぎるくらいのセミスイートだ。
趣のある畳の部屋でダイニングスペースと寝室が分かれている。
「わあ、露天風呂広い……!」
三人で入っても余裕で余るくらいのスペースがある檜風呂だった。
大浴場もあるけど、部屋風呂はゆったりできるから良いわよね。
鏡花ちゃんも喜んでるかしら?
「夕食は七時からだから、その前に入ります? あ、でも大浴場で合流しましょうって言っちゃったんだった」
「鏡花が待っているから後にしよう。それに――、」
和仁さんはするりと腕を回して後ろから抱きしめる。
「二人きりでゆっくりしたい」
「……っ!」
そっか、今夜は二人きりだった……!
子どもが生まれるとなかなか新婚のようにはいかない。
それでも毎日楽しくて幸せだと思っているけれど、やっぱり夫婦の時間も大切なわけで。
「和仁さ……んっ」
貪るような深い口付けに翻弄され、もう何も考えられなくなる。
目の前の彼のことしか見えない。
やっぱり私は、何年経っても和仁さんに恋をしているのだと思った。
「ジェシカ……」
「あ……」
このまま恋人同士のように溺れていけたら――そう思うけれど、今はダメ!
「鏡花ちゃんっ、待ってますから!」