【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 和仁さんの言葉に思わず顔を上げる。


「一応ここは君の家でもあるんだからな。遠慮はするな」
「……! あ、ありがとうございますっ」


 もしかしたら私の境遇を憐れんで同情してくれたのかもしれない。
 それでも君の家と言ってくれたことが嬉しかった。

 お飾りの妻だけど、ここにいてもいいと言われているみたいで。
 桜花組の一人に入れてもらえてるのだとしたら、嬉しいな――。


* * *


 翌日は快晴で洗濯物日和。
 気持ちが良くてつい鼻歌を歌ってしまう。


「〜♪〜♪」
「姐さん、ご機嫌っすねぇ」
「あら、そうかしら?」
「兄貴といいことあったんすか?」
「えっ」


 千原さんにそう突っ込まれ、思わず顔がカアっと熱くなる。


「あーー! その顔はやっぱりなんかあったんすね!」
「な、何もないわよっ」


 本当に大したことは何もない。
 だけど舎弟の皆さんはお見合い結婚だと思っているようで、普通に仲の良い夫婦だと思われているみたい。
 和仁さん曰く面倒だから好きに思わせておけ、とのこと。

 実は政略結婚で書類上だけの妻だと知ったら、みんなどう思うのかしら。
 そんなことで態度を変えるような人たちではないと思うけれど。

 でも、昨日あんな風に言ってくれたのはすごく嬉しかった。
 きっと和仁さんがみんなに慕われるのは、ああいうところなのだろうと思った。


「……姐さん、顔赤いっすよ」
「や、やだ! そんなに!?」


 笹部さんに指摘され、思わず頬に手を当てる。


「いやそういうことじゃなくて」
「?」

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