【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


* * *


 ピピッと体温計が鳴り、三十八度と表示されていた。
 私はベッドの上ではあ、と溜息をつく。

 やってしまった……最近動き回ってたからかしら。

 あの後熱があることがわかると、千原さんと笹部さんがすぐに「寝てください!」と部屋に連れて帰ってくれて。
 あれよあれよとベッドに寝かされていた。

 おでこには冷えピタ、首にはネギを巻かれ(風邪に効くらしい)いつでも水分補給ができるようにと、枕元には二リットルの水とコップが置かれている。

 至れり尽せりで有難いけれど、結構落ち込んでいた。
 体調だけは崩さないようにと思っていたのに。

「風邪なんて引いてただでさえ迷惑なのに!」

 実家で私が風邪を引くと、義母はいつも迷惑そうにしていた。
 一応看病してくれたけれど、莉々果が風邪を引いた時とは対応が明らかに違っていた。

 だからなるべく迷惑かけまいと、体調管理はとても気を遣っていた。
 それなのに、熱を出してしまって……また迷惑だって思われたらどうしよう?

 頭痛が酷いし、喉も痛い。
 何だか寒気も酷くなってきた。

 私は毛布にくるまりながら、寂しさを押し殺す。いつの間にか眠りに落ちていた。

 ふと目覚めると、ほかほかという暖かな空気と美味しそうな匂いが漂っていた。

(あれ、この匂いは……)
「ジェシカ! あったかいおかゆを作ったわよ」
「マム……?」


 目の前にいたのは、こちらに向かって優しく微笑みかけるマムの姿だった。
 エプロンをしておかゆを作ってくれている。

 そうだ、風邪を引いた時はいつもマムがおかゆを作ってくれた――。


「起きたか」

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