【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
「最近はあまりしないが、一応料理はできるんだ」
キッチンに立つ和仁さんを想像して、胸がキュンキュンしてしまう。
料理もできるなんて、素敵すぎる。
「ありがとうございます! すごく嬉しいです!」
「こちらこそ気づいてやれなくてすまなかった。君に無理をさせていたのかもしれないな……」
「……っ」
その言葉に思わず涙がじわりと滲む。
「えっ?」
「う……っ」
「どこか痛いのか?」
心配そうに私の顔を覗き込む和仁さんに対し、ふるふると首を横に振る。
「違うんです……迷惑をかけてしまったと思ってたから」
「迷惑? どこがだ?」
「義母は私が風邪をひくと迷惑そうにしていたので……」
「……」
ポロポロ涙をこぼす私の頭を、ポンと優しく撫でてくれた。
「……和仁さん?」
「風邪くらい誰だって引くだろう。むしろ迷惑かけてやるくらいでちょうどいい。家族なんだから」
「え……でも、私たちは書類上の夫婦だって」
「でも同じ屋根の下に住む家族であることには変わりないだろう」
私は千原さんの言葉を思い出していた。
桜花組という大きな家の中にいる者はみんな家族だという言葉を。