【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 その時はなるほど、と頷いていただけだったが、後になって質問の意図がわかった。


「……組長には跡取りとなる息子がいて、その息子の嫁を探していたんだ」
「まさか、それって」
「娘を嫁に欲しいって……」
「何よそれ! そんなの無理よ!!」


 立ち上がって声をあげたのは、妹の莉々果(りりか)だった。
 莉々果は小柄な子うさぎみたいな愛らしさを持っているけれど、この時は機嫌の悪い猫みたいだった。


「まさかパパ、莉々果に極道の妻になれって言わないわよね!?」
「……」
「あなた、莉々果はまだ大学生よ。これから社会に出て勉強していくのに、結婚なんて! それも極道だなんてあり得ないわ」
「ママの言う通りよ! 莉々果カレシだっているのに! だからもちろん、嫁に出すならお姉ちゃんよね?」


 莉々果はチラリと私を見やる。


「お姉ちゃんは今フリーでしょ? 鈍臭くてこの先嫁のもらい手なんているかわからないし、極道でももらわれた方がいいんじゃない?」
「それもそうね。きっとその方がジェシカさんのためにもなるわ」
「よかったわね、お姉ちゃん!」


 妹と母は、私の意思など求めていなかった。
 求められたことなんて一度もないけれど。

 父はブルブル震えながら、私に向かって深々と頭を下げた。


「すまないジェシカ、どうかこの結婚を受けてくれないか……!!」


 極道との約束を違うことがあれば、父はどうなるかわからない。受けざるを得なかったのだろう。


「……わかりました。結婚します」

< 3 / 153 >

この作品をシェア

pagetop