【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
小説をレジに持っていきながら、ふと思った。
そういえば私、和仁さんのこと何も知らない。極道がどんなことをしてるのかも全く知らない。
お飾り妻は知らなくていいことなのかもしれないけど、ちょっと寂しいような……。
突然、ぐーーーーという音が響く。それもなかなかに大きな虫が鳴いたようで、思わずカアッと顔が熱くなる。
「そういえば昼を食べてないな」
「そうですね……」
「何か食べて帰るか」
「えっ!? あ、はい……」
今更だけど、何だかデートしてるみたい。
いや、これは紛れもなくデートでは?
嬉しい気持ちの反面、やっぱり和仁さんの気持ちがわからなくて戸惑ってしまう。
きっと前よりは私に対して心を開いてくれているのだと思う。
最初から親切にはしてくれていたし、私の身の上に同情してくれているのだとも思う。
だけど、それだけでここまでのことをしてくれるの?
一応妻だから?
「和仁さん」
「なんだ?」
「っ、いえ……何でもないです」
お願い、これ以上優しくしないで。
これ以上優しくしてもらったら、私は――。