【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
とにかく親に見捨てられた形でこの家に嫁がされ、哀れなのは確かなので極力彼女に窮屈な思いはさせないようにと思った。舎弟たちにもよく言って聞かせた。
正直彼女がこの家に馴染めるとは思わなかった。
カタギの女がいきなり男臭いところに放り込まれ、居心地が良いわけがない。
だからこそ千原と笹部に世話役を任じたのだが、まさかあっという間に打ち解けるとは思っていなかった。
二人は常日頃からジェシカを褒める。
「姐さんが来てから桜花組が明るくなったっす!」
「ああ、俺たちにも優しく気配りのできる方だ。流石兄貴、いい嫁さんをもらいましたね」
他の舎弟たちも同意見だった。みんなジェシカを慕うようになっていた。
確かにジェシカが来てから空気が明るく、穏やかになったような気がする。
いつの間にか庭いじりを始め、自然と笑い声が聞こえてくるようになった。何よりジェシカはいつも楽しそうだった。
ガーデニングをしている時も、家事をしている時も、千原たちと一緒にいる時も。
いつも楽しそうに笑っている。
どうやらそんなジェシカを両親も気に入っているようで、特にお袋はいたく可愛がっていた。
むさ苦しい男ばかりの中で若い娘が来てくれたことが嬉しくて仕方ないのだろう。
親父は「早く孫の顔を見せろ」とうるさいが、適当にスルーしている。
寝室すら別なのに何を言っているのか。