【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
昼時になったので、デパートのレストランがあるフロアに行き、フロアガイドを見に行った。
「何が食べたい?」
「和仁さんの食べたいものでいいですよ」
「君は食べたいものはないのか」
「私は何でも食べますので」
確かにジェシカは特に好き嫌いはないらしい。
作る料理はどれも旨く、誰に教わったのか俺の好物ばかり並べてくれる。
でも、だからこそ知りたい。
「……知りたいんだ」
「え?」
「君が何が好きなのか」
「私の……?」
「……いや、何でもない。忘れてくれ」
我ながららしくないことを口走ったと思い、視線を逸らした。
するとジェシカは、何か思い切ったようにこう言った。
「あのっ、私おでんが好きなんです」
「おでん?」
「母が作ってくれたり、コンビニで買ってきてくれたり、母と一緒に具を選ぶのが楽しくて……ささやかですけど母との思い出の味なんです」
「そうか、なるほど……だがおでんの店はないな」
「あ、大丈夫です! 母が和食好きでしたので、私も和食が好きです」
「そうか。このとんかつ屋は結構美味いぞ」
「とんかつですか! 大好きです!」
「じゃあそうしよう。夕飯は家でおでんを作るか」
「いいんですか……?」
「君のお母さんの味には負けるかもしれないが」
今は夏。おでんの季節ではないが、まあいいだろう。