【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
「そんなことないです! すごく嬉しいです……!」
嬉しそうなジェシカの瞳に涙が浮かんでいるのに見て、また泣かせてしまったのかと焦る。
「どうした?」
「え? やだ、ついこぼれてしまったみたい。だってすごく嬉しいんですもの」
そう言ってジェシカはハンカチで目元を押さえる。
「……これだけのことが?」
「和仁さんが私のこと知ろうとしてくれる気持ちが嬉しいんです。それに和仁さんは、いつも私のことを受け入れてくださるから。
実家ではいつも否定されてばかりだし、私の意思なんて誰も求めてませんでしたから」
改めて実家であれだけ冷遇されながら、慎ましく真っ直ぐに育ったものだなと思った。
「やっぱり和仁さんは優しいですね」
違う、優しいのは君の方だろう。
俺なんかのこと、そんな風に思ってくれるのは二人目だった。
愛のない政略結婚を受け入れ、悲観することなくいつも前向きで。
突拍子もないことをし始めることもあるが、いつも周囲への気配りは忘れない。
こんな俺にも温かく微笑みかけてくれる君が、愛おしくてたまらない。
もう誰のことも愛せない、愛したくないと思っていたのに――。