【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
とんかつ屋では瞳を輝かながらとんかつを口に運ぶジェシカが可愛かった。
ジェシカとこうして一緒にいると、自分が桜花組の若頭であることを忘れそうになる。
今だけはカタギの人間に溶け込めているような、そんな錯覚に陥る。
「そういえば私、ずっと気になってたことがあるんです」
「なんだ?」
「和仁さんっておいくつなんですか?」
聞かれてそんなことすら教えたことがなかったのか、と思った。
「今年で二十五だ」
「私の一つ上だったんですか。勝手にもっと年上かと思ってました」
「そんなに老けて見えるか?」
「そうじゃなくて! 落ち着いてるし、千原さんや笹部さんが兄貴兄貴って慕うから、もう少し年上なのかなって思ってたんです」
「あいつらいつもうるさいからな」
「千原さんがチワワで笹部さんがドーベルマンみたいですよね」
「くっ……!」
思わず噴き出してしまった。
あまりにも似合いすぎていておかしい。
「その通りだな……っ」
声に出して笑うことなんてなかなかないが、我慢できなかった。
ジェシカといると、何気ない時間も楽しいと感じる。
こんな気持ちになるのは、あの時以来だ。
俺はもう、誰のことも好きになりたくなかったし恋愛する資格もないと思っていた。
それなのに、
「和仁さん、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです!」
ジェシカに惹かれる気持ちは抑えられない。
彼女が笑いかけてくれる度に、抱きしめたくなる衝動に駆られる。
「……和仁さん? どうかしましたか?」
「――あ、いや、何でもない……。駐車場に戻ろう」
「はい」