【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 全く自分は何をしているのだろう。ジェシカにあんなに冷たいことを言っておきながら、やっぱり愛しているだなんて言えるわけがない。

 助手席に座り、シートベルトを締めているジェシカを横目で見つめる。

 そもそもジェシカは俺に対して恋愛感情はないのだろう。
 顔が好きだと言われたことはあるが、今更夫婦らしさなんてものは求めていないだろうしな。


「……あ。すまない、先に駐車券の清算をしてくる。車の中で待っていてくれるか」
「わかりました」


 一度車を降り、駐車券の清算を行なった。
 その場を離れたのはほんの数分のことだったと思う。

 だが、車に戻るとジェシカの姿はなかった。


「……ジェシカ?」


 キョロキョロと周囲を見回すが、どこにもいない。


「ジェシカ! どこにいる?」


 電話をかけると、割と近い距離から着信音が聞こえた。ハッとして音の鳴る方へ行ってみると、ジェシカのスマホが地面に落ちている。


「……!!」


 一気に血の気が引いた俺は、ジェシカのスマホを拾い上げ、急いで電話をかける。


「もしもし峰かっ!?」
《若? 何かあったのか?》
「ジェシカが攫われた!!」
《何だって!?》


 確証はないが、ほぼ間違いない。ジェシカは何者かに連れ去られたんだ……!


「全組員総動員してでも探してくれ!」
《わかった、すぐに手配する》


 電話を切り、すぐに車に乗り込んでエンジンをかけた。


「クソ……ッ!!」


 桜花組次期組長の妻が狙われないはずがない。これは俺のミスだ。
 自分の立場も忘れて、何を浮かれていたんだ俺は。

 頼む、どうか無事でいて欲しい。頼むジェシカ……!!

 祈りながら車を全速力で発車させた。

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