【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 目を瞑った数秒の間に形勢逆転していて、私は何が起きているのか全く理解できなかった。

 銃口を向けたまま、冷徹な瞳で男を見下ろす和仁さん。


「う、撃てよ!」


 尻餅をつきながら、男は喚いた。その姿はあまりにも情けなく滑稽だった。


「殺せよ!! この人殺しがっ!!」


 和仁さんは無言で銃口を突き付けている。和仁さんの指が引き金にかかるのが見えた。

 ダメ、やめて和仁さん……っ!!

 私は叫びたかったけど、声が出ない。

 パァン! という銃声が響く。
 銃弾は男の頬から数ミリを掠めた。男の頬からツー、と血が滴る。


「……失せろ」
「ヒィ……っ!!」


 ドスの効いた低い声で吐き捨てる。完全に圧倒された男は戦意喪失し、その場に崩れ落ちた。
 和仁さんは銃を下ろし、駆け寄って私を縛っていた縄を解いてくれた。


「大丈夫か?」
「……っ!」


 反射的にビクッと体を震わせてしまった。


「俺が怖いか?」


 あ、違う。そういうわけじゃないのに……。


「あの、」
「巻き込んで悪かった」


 先程までの獣のような激しいオーラは形をひそめ、和仁さんは私に向かって頭を下げた。


「もう君には近づかない」
「……!」


 違うのに。助けに来てくれて嬉しかった。和仁さんが来てくれなければ、死ぬかと思った。

 だから、そんなに寂しいこと言わないで――……。



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