【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
「若!」
和仁さんが破ったドアから峰さんが現れて駆け寄る。
直接話したことは少ないけれど、和仁さんの右腕でいつも一緒にいるので知っている。
峰さんは金髪のロングヘアをポニーテールにしており、線の細い美人だ。
犬に例えるとゴールデンレトリバーだと思っている。
「大丈夫か?」
「ああ」
和仁さんと峰さんは幼馴染らしくて、敬語ではなくタメ口で喋っている。
峰さんは私にも声をかけてくれた。
「姐さんも無事でしたか」
「はい……」
「あの男の身柄を引き渡す準備はできている」
峰さんの背後からスーツを着たかなり長身の男性が現れる。身長は百八十センチくらい。
黒髪をオールバックにしており、一重で目つきが鋭い。和仁さんとはまたタイプが違うけれど、かなりスタイルが良くてイケメンだと思った。
だけど、一睨みするだけで萎縮してしまうような圧倒的な存在感を放っている。
実際その人を見た途端、私を拉致した男は顔面蒼白になって怯え出した。
「わ、若頭……っ!!」
「テメェ、随分勝手な真似してくれたみてぇだな」
瞳孔が開いていてかなり激怒している。
男は完全に震えて縮み上がっていた。
若頭ということは、この人も極道なのかしら?
その人は今度は和仁さんの方を振り向いた。
二人が対峙した瞬間、見えるはずのない火花が見えたような気がした。
「吉野、久しぶりだな」
「……鬼頭。いや、今は染井だったか」
「テメェに呼ばれる名なんかどうでもいい」
「……」