【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


「お帰りなさい!」
「ジェシカ……まだ起きてたのか。眠れないのか?」


 驚いた表情を浮かべつつ、私を労るような優しい視線を向けてくれる。
 そのことにちょっとホッとした。

 あの時はそれどころじゃなかったけど……和仁さんが私の名前を呼んでくれた。それだけのことなのに、とても嬉しい。


「和仁さんのこと待ってたんです」
「そうか。遅くなって悪かった。俺も話があるから、後で部屋に来てくれるか」


 私はこくりと頷く。
 一度自室に戻り、鏡で自分の姿を見たら髪はボサボサ、メイクも落としていなかった。

 こんなだらしない姿で和仁さんを出迎えてしまったなんて、恥ずかしい。
 私はとりあえずシャワーを浴びてワンピースタイプのルームウェアに着替えた。

 すっぴんのままでいいか悩んだ挙句、リップクリームだけ引いてみる。
 ものすごく緊張したが、意を決してドアをノックした。


「どうぞ」
「……失礼します」


 ドアを開けると、風呂から上がったばかりで髪の濡れた和仁さんがいる。首にタオルをかけて髪を拭いている姿が色っぽい。
 色気がありすぎて顔が見られない……。


「どうした? 座らないのか」
「あ、はいっ」


 私はドギマギしながら椅子に浅く腰掛けた。
 掃除をする時くらいしか入らない和仁さんの部屋は、物が少なく旅館の和室みたいに整っている。

 こうして和仁さんと向き合っていると――緊張して心臓が破裂しそう。
 どうしていいかわからずソワソワしていると、和仁さんが私に向かって頭を下げた。


「今日は本当にすまなかった。俺のせいで危険な目に遭わせてしまった」

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