【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


 結婚したばかりの頃は想像もしてなかった和仁さんの甘い一面。普段のクールさとのギャップが激しい。
 でもいちいちキュンとしてしまうゲンキンな私。


「ジェシカ……」


 くいっと顎を向けられ、唇との距離が近くなる。


「あ……」


 唇まであと数ミリというところで――


「兄貴〜〜〜〜〜!!!!」


 外から大声が聞こえた。
 恐らくこれは、千原さんの声だ。

 離れの奥からドタドタという騒がしい足音が聞こえる。
 和仁さんは大きな溜息を吐き、明らかに不機嫌そうな表情に変わった。

 いつもの和仁さんに戻った。


「兄貴ーー!! 大変っす!!」
「千原……指詰めたいか?」
「えっ、嫌っす! そんなことより大変なんすよ! 浅雛嬢が来ました!!」


 それを聞くと和仁さんはますます不機嫌そうになった。


「まだ朝の九時だぞ……」
「でも既に居間でお待ちしてるっす!」
「はああ……」


 和仁さんはげんなりしながら肩を落とす。
 どうやら浅雛組のお嬢様がお見えになったみたいだ。

 一体どんな方なのかしら?
 私は少し緊張と好奇心が入り混じった気持ちで、和仁さんと共に居間に向かう。


「あ、浅雛嬢。お待たせしました、兄貴と姐さんをお連れしたっす」


 千原さんが声をかけると、居間にいた黒髪の女性がこちらを振り返る。

 まるでスローモーションを見ているような感覚だった。
 癖一つないキューティクルな長い黒髪を靡かせ、切れ長の凛々しく強い瞳が私たちを捉える。

< 64 / 173 >

この作品をシェア

pagetop