【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。


「こちらこそ、こんなに良いお嬢さんに来ていただけるとは光栄だ。どうかよろしく頼むよ」
「は、はいっ! もちろんです……!」


 吉野組長は穏やかな人だ。
 でも、逆らってはいけないような妙な威圧感を持っている。

 人が良さそうな笑みを浮かべているのに、瞳の奥の眼光は鋭い。

 これが極道の組長ということなのかしら、と私は思った。

 お見合いは終始穏やかに終わった。
 吉野組長も奥さんも気さくに私に話しかけてくださった。

 でも、和仁さんは一度も私と目を合わせることはなかった。

 そんな調子だったのに結納、祝言とトントン拍子で進んでいった。


「君は本当にそれでいいのか?」


 神前式での挙式当日、初めて和仁さんが私に話しかけてきた。


「政略結婚の道具にされて嫌ではないのか」


 和仁さん、一応心配してくれているのかしら。


「いいんです。いずれ実家は出るつもりでしたから」


 ニコッと微笑みながら答える。


「好きでもない男と結婚することになってもか」
「まあ、そうですね……」


 和仁さんの顔はとても好きなので、全く好きじゃない人でもないのだけれど。
 紋付き姿の和仁さん、やっぱり素敵だわ。

 内心で惚れ惚れしている私とは裏腹に、和仁さんは冷たく言った。


「……父の命令で仕方なく籍を入れるが、君と夫婦をやるつもりはない」

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