【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
全く悪びれた様子など見せない信士さんに、和仁さんは深い溜息をつく。
「……こうなるから嫌だったんだ」
「和仁さんも今度我が家へいらしてください。改めて結婚祝いをしますわ」
「そうだ、今度の日曜にしよう」
「おい、勝手に決めるな」
「十二時に我が家へ集合だ。それじゃあ私はそろそろお暇しよう。お待ちしていますね、ジェシカさん」
「は、はいっ」
一方的に決めてしまうと、信士さんは立ち去っていった。
蘭さんも生け花の続きがあるから、と戻られてしまう。
何だか嵐が過ぎ去った後みたいだ。
和仁さんはもう一度深い溜息を吐いていた。
* * *
「満咲家は旧華族の末裔という由緒正しい家柄で、代々警察官という家系なんだ」
その日の帰りの車の中で、和仁さんは信士さんのことを教えてくれた。
「あんなやつだが意外に有能でな。将来は警視総監だと言われている」
「すごい方なんですね」
「満咲家は警察界隈では揺るぎない権力を持っている。それ故に代々桜花組と染井一家を管理する立場にあるんだ」
桜花組と染井一家を警察公認の組として認定したのが、当時の満咲家の当主だったらしい。
両組が裏の組織として動けているのも、対立する両組が均衡を保っているのも、満咲家の管理下にあるからなのだそうだ。