【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
桜花も染井も警察の影の組織だと聞いた。
両組ともとても大きな勢力だし、協力し合えばもっと強固な力となるはずだ。
それなのにどうしていがみ合うのだろう。
「昔からの因縁があるライバル関係だったみたいだけど……それだけじゃない。二組にはわだかまりがあるの」
「わだかまり?」
「ごめんなさい、それを私の口からは話せない。和仁さんがあなたに話していないのなら、尚更私から話すべきじゃないわ」
「……私が知っていいことなのでしょうか」
それがあの人が言っていた「人殺し」という言葉に関係しているのだとしたら――、和仁さんは話したくないのかもしれない。
「ジェシカさん……」
「ジェシカ」
不意に後ろから声をかけられた。
振り返ると、和仁さんと信士さんが立っていた。
「そろそろ帰るぞ」
「あ、はい」
帰り際、結婚祝いにペアのワイングラスとお土産にチーズケーキをいただいた。
疎い私にはよくわからないけれど、きっと高価なものなのだろう。
「こんなに素敵なもの、ありがとうございます」
「いいえ、今日はとても楽しかったわ。また遊びにいらしてね」
「ジェシカさん」
信士さんはにこやかに微笑みながら、私にしか聞こえない声で囁いた。
「和仁のこと、信じてやってください」
「えっ……」
それってどういう……?
聞き返そうとしたけれど、グイッと和仁さんに腕を引っ張られた。
「ジェシカ、行くぞ」