【完全版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
そのままグイグイ引っ張られて車に乗せられる。
運転席に座る和仁さんは、いつもより仏頂面だった。
「……あいつに何を吹き込まれたんだ」
「え、いや……」
「余計なこと言っていたんじゃないだろうな」
「和仁さんのこと、信じてやって欲しいって」
そう言うと和仁さんは虚をつかれたような表情になる。
それから私から視線を逸らし、再び不機嫌そうになった。
「いらんことを」
桜花組と染井一家が対立している理由、それが和仁さんの過去と関係あるのかもしれない。
でも、多分私には話したくないのだと思う。
きっと何か事情があるのだと思うし、無理に聞くべきではないと思うけれど……やっぱり寂しい。
「ジェシカ、もう少し待っていてくれないか」
「……え、」
「いつかきっと、話すから」
私の目を見てそう言った和仁さんの漆黒の瞳は、ほんの僅かに揺れているような気がした。
切なげに見つめてくる彼は、何かと葛藤しているようにも窺える。どこか儚く、何故か消え入りそうな気がして私は思わず和仁さんの手を取った。
「……待ってますね」
私を信用していないわけじゃない、多分和仁さんにとって大きな勇気がいることなのだと思う。
その時思った、私も和仁さんに嫌われたくないと思ったように、和仁さんもまた全てを曝け出すことを恐れているのかもしれない。
「大好きです、和仁さん」
私は私なりに、和仁さんを支えよう。
私たちはまだ夫婦として歩み始めたばかりだから。少しずつでいい、私たちだけの夫婦の形を見出せていきたい。
和仁さんは返事をする代わりに優しく微笑む。
そして私を抱き寄せ、額にキスを落とした。
私は何があっても、和仁さんを愛してる。