華道の獅子は甘く初花を愛でる

4 風早流の屋敷

田園調布にある和風のお屋敷に着き、私は車から下された。

庭には、巨大なフラワーアレンジメントが多数置かれており、木や鉄と薔薇の融合、竹の直線美、巨大な花の咲き乱れる球体などがあった。

「どうだ?
お前の目にはどう映る?」

風早さんが尋ねる。

「いえ、素晴らしいの一言で…
薔薇のフラワーアレンジメントが特に好きです。」

私が言うと、風早さんは少し奇妙な顔をして黙った。

「ご、ご、ごめんなさい…!
薔薇の花が好きなので…!」

私が言うと、風早さんは「そうか…」とだけ答えて、こっちを見てくれなくなった。

何か不味い事を言ってしまったんだろう。
私って本当に間抜けだ…

そう思うが、もう後の祭りである。

私は中の渡り廊下を通り、恐らく厨房に連れて行かれた。

「みんな、新入りだ。
夏野初花(なつのういか)
コイツには俺の身の回りの世話をさせる。」

風早さんがそう言うと、メイドさん達がどよめいた。


どうしたのかな?

1人の美人のメイドが一歩前に出てこう言った。

「そんな!?
志道様のお世話はここに6年勤めた私の仕事だったはずです!
そんなポッと出の、何処の馬の骨かも分からない女に任せるというのですか!?」

な、な、なるほど…
メイドさん達にも厳しい規律があると言う事なのか…?

「黙れ。
杏奈(あんな)
その世話をされてる俺がこの娘が良いと言っているんだ。
お前の勤め先の主人が、な。」

風早さんは冷たい口調でそう言った。

「そ、そんな…」

杏奈さんは悔しそうに唇を噛んだ。

「とにかく、コイツをメイド部屋に案内してやってくれ。
舞子(まいこ)頼む。
メイド服に着替えさせたら、俺の部屋へ寄越してくれ。」

風早さんが言った。

「承知致しました。」

舞子さんと呼ばれた、30代後半くらいの女の人が私の前に出た。

「初花さん、こちらへ。」

そう言われて、私は舞子さんに着いていく。
長い廊下を進み、障子を開けてある部屋に通された。
一応個室のようだが。

「ここは、菖蒲(あやめ)の部屋と言います。
杏奈さんの部屋とは離れてますから、安心して使ってください。
志道様、家元のお部屋は松の部屋と呼ばれています。
松の部屋へ持って行って、などよく言われると思いますので、覚えておいてください。
メイド服はこちらになります。
置いておきますね。

それでは、着替えた頃に呼びに来ますので。」

そして、舞子さんは障子を閉めて部屋から出て行った。

はぁ…
本当にメイドになっちゃったんだ…
仕方ないとはいえ…

私はそんな事を考えながらもメイド服に着替えた。
pagetop