華道の獅子は甘く初花を愛でる

5 松の部屋

そして、舞子さんが着替え終わって少しした頃にやって来て、私を松の部屋に連れて行った。

「松の部屋はこの1番奥です。
身の回りの世話をする初花さんやメイドの長である私、風早流の2番手さん以外は立ち入る事を許されていません。

それだけの重責だと言う事を忘れないでくださいね。」

舞子さんは言う。

「は、はい!」

私は答えた。

「失礼します。
舞子です。
初花さんをお連れしました。」

舞子さんが障子の外で三つ指ついてそう言った。
舞子さんは私にも目を光らせた。
私は急いで正座して三つ指ついた。

「入れ。」

短く風早さんの声がした。

「失礼致します。」

その部屋はお寺のように広かった。
半面は畳だが、もう半面はコンクリートの床である。

和と洋が融合したような部屋に呆気にとられた。

「初花さ…
初花さん…!」

舞子さんの呼びかけで私は意識を風早さんに戻した。

「良い。
舞子ご苦労だったな。
後は、初花にさせる。
下がって良いぞ。」

風早さんが言い、舞子さんは部屋から出て行った。

「どうだ?
良いだろう?
俺の代で松の部屋を和洋折衷に改造させたのさ。」

風早さんは言う。

「はい…
とても素敵です。」

私は慎重に言葉を選んだ。

「そう緊張するな。
ここで一日の大半を過ごすことになるんだ。」

「一日の大半を…?」

私は聞き返す。
どういう意味か分からない。

「そうだ、何も聞いて無いのか?
俺の身の回りの世話をすると言う事は…

夜伽(よとぎ)もすると言うことだからな。」

「夜伽!?」

私は驚いた。

「何を恐れる事がある?
俺に処女を30万円で売ったんだろ?」

妖艶に笑う風早さんに私は言葉を失った。

「あの、私、夜伽のやり方など…」

「やり方?
そんなのは俺が教えてやるさ。
手取り足取り、な。」 

またしてもニヤリと風早さんは笑った。

「あら?
あれ…」 

私は台の上の菊の生け花を指差した。

「あぁ、あの生け花か…
アイディアが途切れてな…
それであのあり様だ。」

「菊を使われた理由は?」

私は尋ねる。

「新しい日本をイメージした花だ。
つまり、令和の始まりをイメージしたんだが…
何を合わせるか…」

風早さんは悩んでいるようだ。

「私ならば…」

「ならば?」

「紫のトルコキキョウを合わせます。」

私は言う。

「紫のトルコキキョウ…か…」

「えぇ、紫には…」

私が説明しようとすると…

「ちょっと黙ってろ、イメージが沸いたんだ。」

風早さんはトルコキキョウの茎を切り、花器に挿し始めた。

30分後…

「どうだ?」

風早さんが振り向き私に声をかけた。

「素晴らしいです…!」

そこには高貴さと新しい日本を感じさせる素晴らしい生け花が出来ていた。
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