華道の獅子は甘く初花を愛でる

8 プロポーズ!?

「そうか…」

そう言って、風早さんは私を引き寄せギュッと抱きしめた。

「か、か、風早さん!?」

「少しこのままで…
昔話をし過ぎたようだ…」

彼のその声は僅かに震えていた。

私は自分の腕を…
彼の背中に回した。

♦︎

翌朝。

私が目を覚ますと、風早さんは着物で百合の花を生けていた。

「わぁ、イザベラですね!」

私は風早さんの隣にちょこんと座ってそう言った。
イザベラは百合の改良した品種で、八重咲きの花びらが幾重にもなった華やかな百合である。

「あぁ、漆器に生けて、クレマチスとモカラを脇に添えてアジアンテイストにしてみた。」

「素敵です!
イザベラは洋のイメージですけど、モカラのオレンジと漆器でアジアンテイストに化けましたね!」

「初花、お前が居るとイメージが沸くんだ…
ずっと側にいて欲しいがな…

まぁ、無理な話か…
借金がなければ、お前とは出会う事もなかったしな…」

風早さんは寂しそうに苦笑いした。

「わた…し…」

私?
何て言おうとしたの?

借金が無くてもずっと側に居ますって?

そんなの、告白通り越してプロポーズじゃん!

「朝から辛気臭い事言ってないで、シャキッとして下さい!」

私はそう言った。

「俺に向かってそんな事を言うのはお前くらいだよ、初花。」

風早さんはまた苦笑いした。
だけど、今度は寂しそうな表情は消えていた。

そして、私たちは朝食を食べた。

「えーと、じゃあ、私は一旦自分の部屋に戻りますね。
メイドとして働かなくては!」

私は張りきって言うが…

「何を言ってるんだ?
メイド仕事など他の奴に任せておけ。」

風早さんは言う。

「えーと…
じゃあ、何するんです、私…?」

ここで、ずっと風早さんの生け花を見つめていろ、とでも言うのか?

「今日は華道教室の講師をする。
青山の一角に華道教室があるから、そこにお前も連れて行く。

俺のアシスタントとして働け。」

風早さんが言う。

「は、はぁ…
でも、私生け花の知識はさっぱりで…
花屋をしてましたから、花の種類は詳しいですが…」

私。

「俺の指示通りやれば問題ない。
あぁ、一応着物に着替えてきてくれ。
舞子に着付けを頼むといい。
着物も舞子に用意するように言っておく。」

風早さんが言い、私は舞子さんに着付けてもらった。
私はピンクの七宝(舞子さんに教えてもらった)という柄の着物を着らしい。

そして、玄関で草履を履いて車に乗った。

着物って動き辛い…
成人式くらいしか着物を着た事が無い私は多少戸惑っていた。

そんな事を思っていると、青山の華道教室に到着した。
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