もう隠すのは辞めにします!
和希はゆっくりと鍋の中身をかき混ぜている。その中身がぼこぼと音を立てていても、玄関のドアが開く音がしても、彼の瞳は虚空を映しているのみだ。
「和希ー!たっだいまー」
朱里の元気いっぱいな声と、紙袋の擦れる音が段々と近づいてくるが、和希は上の空のままだ。朱里がやや大きな声で繰り返すと、ようやく朱里の方に注意を向けてお帰りと告げたが、今度は朱里の方が呆ける番になってしまった。
「和希……えっと……」
朱里は両手にある紙袋を落とすのだけは何とか堪えることができたものの、目にした光景が信じられずに、目をぱちくりさせる。
和希はエプロンを着けて夕食を作っている、それだけの筈なのだが……
「和希! な、なんで裸でエプロン着てるの?! 風邪ひくよ?! もう! 毛布持ってくるから待ってて!」
明らかに異常な様子の和希を見た朱里は、紙袋を乱雑に置き、コンロの火を止める。そしてドタバタと台所を後にした。和希はちらりと紙袋を見やる。
(これも証拠になるかな……)
そう思って書店の袋の中も覗いたのだが、本当に本しか入っておらず、和希は眉を顰める。本というよりは雑誌に近いかもしれないが、それよりも薄いのだ。しかし手に取ろうとしたものの、足音が近づいて慌てて鍋の前に戻って、カレールウを割って鍋にぶち込み、かき混ぜていた。そして頭から毛布を被せられて数歩よろめく。朱里は後は自分が作ると言い張り、和希をソファーに座らせ、紙袋を掴んで自分の部屋に向かった。
(これはチャンスだな)
和希はなるべく足音を立てずに素早く朱里の元へ向かう。案の定両手に紙袋を持っていた朱里は上手くドアを開けられないでいた。和希はドアを開け、朱里が部屋に入ったのを見計らってドアを閉じる。もちろん自分はしっかりとドアの内側にいた。
「あ、和希。ドア開けてくれてありがとう……あれ、なんで入ってきたの?」
にこにことしていた朱里だったが、その笑顔は引き攣っているのを和希は見逃さない。和希はそんな彼女に怒りをぶつける訳にはいかないと、必死で言い聞かせ、努めて平静を装って尋ねる。
「朱里、何を買ってきたの?」
「えっ……これは、その……」
朱里から表情が消えた。紙袋を後ろ手にして首を振っている彼女の言動からは不審な気配しか漂っておらず、和希は低い声で再度尋ねた。
「朱里、もしかして僕に言えないものを買ってきたの? 朱里、僕に何を隠してるの?」
和希が距離を詰めたので、朱里は後ずさる。だがその拍子に朱里が紙袋から手を離してしまい、その中身をぶちまけたのを見届けた和希は、朱里の動きを封じるために、彼女を引き寄せて腕に閉じ込め、床にあるものを見て頭に疑問符を浮かべる。
そこにあったのは、十数冊の薄い本だった。
「和希ー!たっだいまー」
朱里の元気いっぱいな声と、紙袋の擦れる音が段々と近づいてくるが、和希は上の空のままだ。朱里がやや大きな声で繰り返すと、ようやく朱里の方に注意を向けてお帰りと告げたが、今度は朱里の方が呆ける番になってしまった。
「和希……えっと……」
朱里は両手にある紙袋を落とすのだけは何とか堪えることができたものの、目にした光景が信じられずに、目をぱちくりさせる。
和希はエプロンを着けて夕食を作っている、それだけの筈なのだが……
「和希! な、なんで裸でエプロン着てるの?! 風邪ひくよ?! もう! 毛布持ってくるから待ってて!」
明らかに異常な様子の和希を見た朱里は、紙袋を乱雑に置き、コンロの火を止める。そしてドタバタと台所を後にした。和希はちらりと紙袋を見やる。
(これも証拠になるかな……)
そう思って書店の袋の中も覗いたのだが、本当に本しか入っておらず、和希は眉を顰める。本というよりは雑誌に近いかもしれないが、それよりも薄いのだ。しかし手に取ろうとしたものの、足音が近づいて慌てて鍋の前に戻って、カレールウを割って鍋にぶち込み、かき混ぜていた。そして頭から毛布を被せられて数歩よろめく。朱里は後は自分が作ると言い張り、和希をソファーに座らせ、紙袋を掴んで自分の部屋に向かった。
(これはチャンスだな)
和希はなるべく足音を立てずに素早く朱里の元へ向かう。案の定両手に紙袋を持っていた朱里は上手くドアを開けられないでいた。和希はドアを開け、朱里が部屋に入ったのを見計らってドアを閉じる。もちろん自分はしっかりとドアの内側にいた。
「あ、和希。ドア開けてくれてありがとう……あれ、なんで入ってきたの?」
にこにことしていた朱里だったが、その笑顔は引き攣っているのを和希は見逃さない。和希はそんな彼女に怒りをぶつける訳にはいかないと、必死で言い聞かせ、努めて平静を装って尋ねる。
「朱里、何を買ってきたの?」
「えっ……これは、その……」
朱里から表情が消えた。紙袋を後ろ手にして首を振っている彼女の言動からは不審な気配しか漂っておらず、和希は低い声で再度尋ねた。
「朱里、もしかして僕に言えないものを買ってきたの? 朱里、僕に何を隠してるの?」
和希が距離を詰めたので、朱里は後ずさる。だがその拍子に朱里が紙袋から手を離してしまい、その中身をぶちまけたのを見届けた和希は、朱里の動きを封じるために、彼女を引き寄せて腕に閉じ込め、床にあるものを見て頭に疑問符を浮かべる。
そこにあったのは、十数冊の薄い本だった。