もう隠すのは辞めにします!
背後にはご用心
浮気の証拠だと勘違いしていた和希は、それらを見てはてと首を傾げる。これが隠したかったものなのだろうか。

「朱里はこれを隠したかったの? ただの本に見えるけど」

散らばった、美少年からやたらと筋肉質な青年や、ロマンスグレーまで、様々な男性が表紙を飾るそれを見て、顔を赤らめたのはむしろ朱里の方だった。だが何て説明すれば良いか分からないようで、ひたすら目を白黒とさせている。

「え……えっと……」

「中を見てもいい?」

「だ、駄目!」

朱里はぶんぶんと首を振り、和希はしゅんとして眉を下げた。

「理由を聞かせてくれないか?」

しかし朱里は首を振ったままである。その目尻が僅かに光っているのを見て、和希はしまったと思い、彼女の頭を撫でる。

「だって……私の趣味を知ったら和希に、き、嫌われちゃうって……思ったの」

和希は朱里の頭を撫でていた手を止め、再び眉を寄せる。先程からさっぱり朱里の隠したい理由の見当がつかなかったからだ。ただの漫画のように見えるのにも関わらずである。

(言えないなら……仕方ないな)

和希は朱里を持ち上げたと思うと、素早く自身の両肩に朱里を担ぎ上げた。

「ちょっと、和希?! 何してるの?」

「ファイヤーマンズキャリーだ。これは人を担ぐのに簡単な動作で手早く出来、かつ片手が自由に使える合理的な運び方なんだよ」

「ちょっ、恥ずかしい! おろしてよ!」

「それはできない相談だ。朱里が洗いざらい話してくれたら下ろしてあげる」

「いやーー!」

朱里はまだ下ろしてくれとせがむが、和希はそれを完璧に無視して、適当な薄い本を手に取る。

「ふむ……これは……」

和希が手に持っているのは、頬を染めた二人の美少年が両手を繋ぎ、お互いに見つめ合っているイラストが描かれている薄い本だった。同人誌というそれをパラパラとめくると、あられもない姿で体を繋げようとしている描写があり、思わずそこでページを捲る手を止めた。

「ふむふむ。なるほど、男性同士の恋愛の本か。ああ、確か聞いたことがある。今はBLって言うんだっけ」

和希は美少年が濃厚に絡み合っているシーンを熟読した後、今度は小説を手に取り、パラパラとそれをめくり始める。朱里は四肢をめちゃくちゃにして暴れるが、和希から降りることは叶わなかった。

「これは物語か……なになに?『和真はひたむきに唇を求め続け、その肉厚の舌を絡めていたが、不埒なその手は片方は胸の頂を触れるか触れないかのタッチで弄ぶ。桜桃のように熟れたそれをちょんと突くと、亮は艶っぽい声を上げるが、それは和真の唇へと消えていく。もう片方の手は天を向いた熱杭に伸びたと思えば太ももを擦るだけだ。唇が離れた隙に亮は触れてくれと強請るが、和真はさらにそのタッチをソフトにしていく。亮が耐えきれなくなったのか、和真に激しく舌を絡め、彼の熱杭にそっと手を這わせた。脈打つそれを愛おしげに握り、ゆるい摩擦を与えると、和真も観念したようで、彼もまた亮の熱杭の根本から先まで優しく撫でる。お互いの熱杭が震えるまで互いがその手を離さなかったが、和真は亮の足を持ち上げ、その慎ましげな菊をしばし眺め』……」

「朗読しないで!」
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