もう隠すのは辞めにします!
「なるほどな……じゃあお風呂にスマホを持ち込んでたのは?」

「お風呂入る時に推しが出てるアニソン掛けてたの」

もじもじとして告げる朱里に、さらに和希は質問を重ねる。

「仕事の帰りが遅くなったのって……」

「……うん。推しのグッズ集めてたり、同人誌を見て買い漁ってたの」

朱里は顔を両手で覆う。その声はだんだんと小さくなっていったので、和希はベッドに座って近づいた。

「じゃああれは……部屋の鍵付きの収納スペースも……」

「隠したかったから推し入れを買ったの」

(押入れ……? あ、推し関連のものを入れてるのか)

朱里は鍵をポケットから取り出し、収納を開けて中身を取り出す。同人誌やBL小説が所狭しと並べられており、朱里の熱心さが伺え、和希は思わず微笑み、ベッドを軋ませながら彼女を抱きしめた。

「ごめん、朱里……浮気を疑って」

「ううん。いいの……わたしも趣味を隠しててごめんなさい……和希がパートナーで本当に嬉しい」

朱里の顔が近づき、そしてゆっくりと離れた。和希は不意打ちのキスにしばし惚けていたが、唇を曲げて微笑んだ。

「僕で良ければいつでも教えてあげる。それに古文でも読みやすいBLあるし」

「ほんとに……? 嬉しい! ありがとう和希!」

朱里は和希の手をぎゅっと握ったが、彼の大きなくしゃみを聞いて甘い気分が消し飛んだ。

「あ! 和希! そういえば何で和希は裸でエプロン着てるの? 風邪ひくじゃない!」

朱里は再び毛布を和希に被せるが、彼は首を振るばかりだった。

「いや、それが……僕、色々ショックでどうやって帰ったかも、何で裸エプロンなのかも分からないんだ……」

朱里は思わず和希の額に手を当てる。抱きしめられた時にいつもより熱いなと思っていたが、どうやら朱里の見立て通り和希は熱を出していた。彼にパジャマを渡し、作ってくれたカレーを食べ、治りが遅くなるとガミガミと言い聞かせ、何とか彼を寝かしつけたところで、朱里も布団に入り、和希の頭をそっと撫でる。

「ありがとう、和希。私は幸せ者だよ」

朱里は和希の額に軽く口づけし、和希に抱きついた。早く治るように祈って。

「今日は和希とBLの話ができて嬉しかったよ。今日はBL解禁日かしら」

口に出してみると、何だか記念日のようになってしまい、朱里はくすくすと笑う。

「おやすみ、和希。良い夢を」

和希の規則的な寝息を聞いていると、いつしか朱里も微睡みに引き込まれていったのだった。
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