レディキラーを君に

枕元に置いていたスマホは彼が充電器を差していてくれていたおかげで満タンになっていた。気遣いが細やかだし優しすぎるし、ただ充電してくれていたというそれだけの優しさに、意味もなく悶えたくなってしまう。

どうしよう、もう、なんでも気恥ずかしい。

ベットの上では信じられないくらい意地悪だけど、そうじゃないときの彼はすごく親切だ。これは・・・ギャップ萌え、なの、か?
なんか違う気がするけど。



お昼を食べてるときに連絡先は交換したけれど、メッセージ画面にはまだ、お互いとりあえずで送信したスタンプがあるだけだ。嗚呼、なんだか初めての文章って、すごく緊張する。

一人きりの部屋に、ぽちぽちという文章を打っては消す電子音が響く。色々考えると何を送っていいかわからなくなってきて、何度も何度も打っては消し、打っては消し、結局最後は思考を放棄して、かわいいウサギの「おはよう」スタンプを送った。



向こうは仕事中なわけだし、すぐには既読つかないよな、と思いつつ画面を見ていると、スタンプが既読に代わった。



「っ!!」



何か喋らなくては!と焦り、わたわたと文字を打つ。



『シチューありがとう。これから食べる』



送ってからあまりの素っ気なさにもうちょっと飾り気のある言葉はなかったのか頭を抱える。慌てすぎて絵文字のひとつもない。あまりにひどい。もっと可愛い言い回しとか、気の利く一言とか!!絶対にあったのに!!私の馬鹿!!


『おはよ。お口に合ったらいいな』

「はぁ~・・・・」



なに、なんなのお口に合ったらいいなって。こんなのお口に合うに決まってるじゃん。まだ食べてないけど分かるもん。好き。もうやだ。というかだってもう見るからにおいしそうだもん!野菜ゴロゴロ入ってるし!チンして食べるよ!!今!



嬉しいんだか腹が立ってるんだか謎な感情に襲われながら、お皿をレンジに入れる。

それから寝室に戻り、ベットに転がって枕を抱きしめてごろごろ転がった。他にこのムズムズを伴う感情を発散する方法が思い浮かばなかったのだ。



それからハっとする。返信しなければ。



『今チンしてるんだ。楽しみ

メモもありがとう

食べたらお酒飲みに行ってもいい?』



そしてまた送ってから落ち込む。
ハートマークとか散らせばよかった気がする。でもどこに。どこに置くべきなの、ハートマーク。やっぱり語尾なのかな・・・行間?え、わかんない。正解が分かんない。こういう時の教科書が切実にほしい。



『うん、ゆっくり食べて

もちろん。

ご馳走するから手ぶらでおいで』



こんなメッセージのやり取りだけでキュンキュンが止まらない。そのうち心不全で病院に運ばれるんじゃないか心配になってきた。恋の病がこんな物理的に動悸息切れを引き起こすものだなんて知らなかった。私の今までの恋愛ってなんだったんだろう・・・。


ちょうどその時、軽やかなメロディがシチューが温まったことを教えてくれた。







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