レディキラーを君に
また、カタン、と音がして彼がカウンターの中に戻ってくる。そしてもう一度私の前に立った。今度はカウンターテーブルに手をついて、少し前のめりで。
思わぬ至近距離で視線が合ってしまった。
「、っ―――」
今日一番に心臓が跳ねて、思わず息を止める。
「一緒に飲んでいい?」
「っ、あ、・・・」
「ごちそうするから」
「っっ」
敬語じゃない。
それだけで、心臓が早鐘を打つ。
まるで中学生みたいな反応の仕方だと思う。だって敬語じゃないだけだ。たったそれだけ。
たったそれだけの変化に私は大いに翻弄されていて―――・・・
気づけばコクコクコクと赤べこのように頷いていた。
のどがカラカラに乾いて、ついつい残っていたカクテルをくっと飲み干してしまう。グラスについた口紅をぬぐった。
すすす、とグラスを彼の前に押しやる。
「お代わり・・・ください」
「甘いの?」
「すっきりしたので」
「ああ、それならちょうどいいのがある」
ニヤっといたずらっぽく笑った彼は、いつもより悪い男に見えた。