最強アイドルは普通な私の特別を知っている

『普通』という呪い


○舞野家 自室
舞野は学校から自室に戻ってベッドに腰かけ、扇(舞野はゆずちゃんと呼ぶ)と通話している。舞野の自室は、整理整頓されており机椅子ベッド本棚がある。

扇(電話越し)「それで、舞野の特別なところを見つけてもらって、3つ納得できるものがあったら付き合うことになったと」
舞野「うん。そういう約束を交わしたの」

扇「ならすぐに付き合うことになるだろうね~」
舞野「そんなことはないよ…わたしに特別なところなんて…」

扇「じゃああたしが今3ついっちゃっていいのかい?幼馴染だし今すぐ舞野のいいとこ教えたげれるけど」
舞野「それはありがとうだけど……その…」

扇「告白されて嬉しかったのかい?」
舞野「そうみたい、正直突然だからびっくりしてるけど」
扇「ならよかった。前のアイツなんて忘れて良いお付き合いを!」



舞野「まだ付き合うと決まったわけじゃ……!」
ぷつんと電話は切れてしまった。
舞野「もうゆずちゃんたら…おやすみも言わないで切っちゃうなんて」

舞野はベッドに寝転んで思考を巡らせる。
舞野「嬉しかった……そうですね。やっぱり誰かに好きだと言われるのは嬉しいです」
舞野「それに颯斗さんの眼は私が片思いしていた人たちにとても似ていて……」

舞野(恋愛とはそこまで縁があるわけではありませんが私は二度片思いをしたことがあります。)
舞野(一度目は小学生の頃)
颯斗を縮めて子供にしたようなシルエットが描かれる。

舞野(二度目は中学生の頃の修学旅行先でしたね、どちらもかなわぬ恋でしたけれど)
颯斗とは全然異なる風貌の男、フードを被った長髪の不良が描かれる。


〇学校 教室

翌日
舞野は教室の扉を開けて、挨拶をする
舞野「おはよう」
歌恋「おはようございます舞野さん」

颯斗「やあ、今日も舞野さんは誰よりも可愛いよ」
舞野「!?!?」
窓際から2列目のもっとも後ろの席が舞野の席であった。誰も座っていなかったはずのその隣に席が増えていて颯斗がそこに座っていた。

舞野「と、突然どうしてそのような……」
颯斗「だって事実だろ。君が世界一可愛いってのは」

舞野は顔を真っ赤にして自席の前で立ち尽くしている。それを颯斗はニコニコしながら眺めていた。




佐藤「え~みんなも既に知っているみたいだが転校生を紹介する。来河は前に」
佐藤先生(眼鏡)の指示を受けて颯斗は黒板の前に立つ。

颯斗「円始閣高校から来ました来河颯斗です」
颯斗は自らの名前を英語の筆記体で黒板に書いたものをバックにして自己紹介をしているところだ。

颯斗「この学校には、五月雨舞野さんの恋人になるために来ました!応援よろしくお願いします!」
ピカァーとしたスマイルで颯斗は宣言する。

颯斗「あ、あとついでに言っておくとアイドルもやっています。ハツリプの応援もお願いします!」
舞野(わ、私と付き合うことこそついでに言うべきでは……)
舞野は内心すこしひいた。


佐藤「よし、それじゃあ来河は席に戻って……」
A子「先生!颯斗君に質問したいです!」
モブ野「俺も!」

颯斗「オレは構いませんけど」
佐藤「なら質問コーナー、チャイムが鳴るまでな」

颯斗「質問がある人~」
A子「はい!」
ドル男「うぉい!」
モブ野「はいはいはいはいはいはい!」
颯斗「えっとじゃあ、そこのモブ野くん」

モブ野「オス!好きな食べ物は?」
歌恋「そんなにアピールしてまで聞きたいことはそれですの!?」
A子「ホームページに書いてあるわよ!」



颯斗「オレの好きな食べ物は……」
颯斗の声を遮るようにキーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。
佐藤「はい終了」
生徒たちからはえ~という声が上がった

颯斗は席に戻ってきて、舞野に話しかける。
颯斗「ちなみに舞野さんはオレに質問ある?なんでも答えるよ」
舞野「ええと……」
舞野(どうしよう。聞きたいことがありすぎて決められません……)

舞野「その…すきな食べ物は……」
舞野(あー、どうしてこんな質問を)

颯斗「オレが好きな食べ物か……スコーンかな。ミルクジャムをつけて食べるのが特に好き」
舞野「わ、私もスコーン好きなんです!」
舞野(共通点があるのは嬉しいかもしれません…)



颯斗「一時間目は英語か。舞野さんは得意だよね?」
舞野「え?いえ、ほかの科目よりは得意かもしれませんけど……」

颯斗「~my destiny to marry her. So~」
指名された颯斗が堂々と教科書の音読をしている。
舞野(本当に海外の人が話しているみたい……)

舞野「颯斗さんって英語が得意なんですね」
颯斗「昔、少しだけ海外で暮らしていたことがあるからそのおかげかな?あとはまあ見本の再現をしているだけ」
颯斗は少しだけ得意げな様子。

舞野「一応得意だと思っていたのですけど、私の発音なんてひどいものです」
颯斗「そんなことはないさ!オレなんかよりずっと上手だよ」



舞野「どうしてそう思うのですか?颯斗さんの前で英語なんて……」
颯斗「会ったことがあるって言っているだろ?」

あまりに自信満々に颯斗が話すものだから舞野は困惑している様子である。
舞野「あの、一応念のために聞いてみたいのですけど私をストーカーしていたわけではありませんよね?」
颯斗「流石にそれはしないよ。オレ自身もそういった行為で苦しんだことがあるのに、それを君にするなんてありえやしないよ」

舞野「ごめんなさい。変なこと聞いて」
颯斗「いいんだ。舞野さんが……」
英語先生「おい、私語は慎むように」

英語先生「注意ついでに五月雨。次のページの音読を頼む」
舞野「は、はい!」



舞野(本当にどうして颯斗さんは私が英語が得意だなんて思うのでしょう?)

舞野(別に私はどんなときも普通くらいしかできないのに……)

颯斗「ねえ舞野さん。キミが英語を得意だってことはオレがよく知ってる。だって、一緒に英語で会話しただろう?」
微妙な表情を浮かべる舞野に颯斗が話しかける。

颯斗「だからさ、キミ自身のことを普通だなんて卑下するなよ。誰に何を言われようとオレが特別だと思う人間はキミだけなんだから、普通だなんて呪いはオレが解いてやる」



舞野「普通という呪い……?」
颯斗「その呪いならもう解いたさ。さあ、やってみせてよ」

舞野(英語の暗唱大会で賞すら取れたこともないのに、本当に私にできるのでしょう?結局私は…)

舞野(この結局普通だからという考えがダメなのでしょうか?あの人に普通でつまらないと言われてからこの考えが頭から離れないのですけれど……)

舞野「颯斗さんが呪いを解いてくれるというなら、やってみましょうか」
誰にも届かないような声で舞野はつぶやいた。



舞野「Will you marry me? Kiriko said. Her eyes……」
起立した舞野は、なにかつきものがとれたように堂々とした態度で英文を読んでいる。

舞野(英語は得意……なのかは正直分かりませんが。好きなのですよね……)
舞野(いろいろな人と話せるってとってもワクワクじゃないですか)
舞野の脳裏にはフードを被った長髪の不良との思い出が呼び起されていた。

舞野は堂々と音読を続けている。それを聞いているクラスメイトが「え、舞野さん上手くね」などとざわついている。颯斗は舞野の様子を見て、どこか懐かしそうに微笑む。

舞野「私、どうでしたか?」
颯斗「懐かしかったね。久しぶりに舞野さんの英語が聞けて、英語力は十分舞野さんの特別なところだよ」
舞野「確かにそうだと颯斗さんのおかげで思えます」



授業が終わり休み時間。舞野は友人の歌恋と窓の外を眺めながら談笑している。
歌恋「先ほどの音読、素晴らしいものでしたわ」
舞野「上手くいったのは颯斗さんのおかげなんです」

歌恋「あの彼はどのようにいっていましたの?」
舞野「懐かしいっていわれました」

歌恋「舞野さんは本当に彼を存じ上げないのですか?」
舞野「はい、私が英語できるってことを言っていたので研修旅行か何かで会ったのかもしれませんが……」

歌恋「来河颯斗って人物、ここ2年以前の経歴が不明なんですの」
舞野「えっ?」
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