またあなたに花束を
もう寝ようかと思っていた私の耳に先程とは何か違う音が飛び込んでくる。慌てて顔を上げると後ろの方でトロンボーンを奏でる一人の少女をみつける。
「すごい、」
彩花が消えかかりそうな声でポツリと呟く。気がついたら周りの人もどんどんその奏者に釘付けになっていく。
どれほど練習したのだろうか。ソロを任されてプレッシャーもあったはずなのにその場に立ち音楽に乗る一人の奏者は自信に満ち溢れていた。たくさん練習したんだろうな。何度も曲を聴いて、何度も譜面とにらめっこして何度も泣いたのだろう。同じ中学生なのになぜそこまで一生懸命になれるのだろう。少ししか聞いていないのに、会ったこともないのにソロを奏でる奏者の感情が手を取るようにわかる。
そう思っているとあっという間にソロが終わってしまった。私がもっと聞きたかったなと思っていると周りの人も私もと言わんばかりの盛大な拍手と歓声を送っていた。
すると1人の奏者も少しびっくりした顔をしたあと、嬉しそうな笑みを浮かべロングヘアの髪が綺麗になびく華やかなお辞儀をした。
その笑みがあまりにも幸せそうで、楽しそうで私もその嬉しさを感じたいと思った。この歓声を浴びたい。この拍手がほしい。そう思ったらいてもたってもいられなくなっていた。それが吹奏楽を目指そうと思った明確な理由だった。
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