白い花のバラッドⅠ
◇ ◇ ◇
暗い静寂が訪れた。
辺りは真っ暗な闇で、風の音が囁く。
何かの前触れなのか、こんな森の中にいるのに虫の音も動物の鳴き声もしない。
いつもの森の雰囲気じゃない。
辺りに響き渡る不気味な風の音は何かを暗示するかのようだ。
「………潮時ね」
「あぁ……」
潜められた小さな話し声が聞こえる。
「まだ時間はあると思っていたのに」
すすり泣くようなその声は母のもので、半分寝ているような自分の耳に届くその声は不安定なものだ。
「……ん、」
扉一枚で隔てた向こうの部屋から聞こえる話し声が気になり、寝返りをうち頭を覚醒させ聞き耳を立てる。
普段ならこんな盗み聞きという野暮な真似をする気はない。
ただ、昼間のことがあるから気になるのだ。
普段と様子が違った二人。