白い花のバラッドⅠ
一瞬、寝たふりをすればいいのか少し迷った。
盗み聞きをしていたことを怒られてしまうと思ったから。迷った末に、そんな嘘はすぐバレるだろうと思い扉の音をギィッと立てながらゆっくりと開けて二人の前に顔を覗かせた。
リビングにある茶色のテーブル、周りに置かれた椅子に座る二人が目に入った。
母は、やっぱり泣いていた。
母の顔には涙は流れていなくとも、頬に涙の跡があったから。
「こっちにおいで」
母の優しい涙声に促されて、ゆっくりドアを閉め母の座る椅子の隣りに腰を下ろした。
その間の沈黙は嫌なものだ。
全てがゆっくり流れているように感じて動作さえも緩慢になる。それでも二人は急かすことはしない。
母の隣に腰を下ろすと母は左手でアタシの髪を梳いた。
柔らかい真っ白な髪を愛しそうに、そして、アタシを見つめるその瞳も愛に溢れていた。