白い花のバラッドⅠ


 父の姿があっという間に見えなくなっても走り続ける母に抱えられながらアタシは必死にもがいた。何とか腕から抜け出そうと躍起になるが、母の腕は解かれることはない。


 母は喚くアタシを何も言わずに抱き締める。


 父が今どうなっているかなんていう嫌な想像にギュッと唇を噛みしめる。


 今すぐに戻りたい。


 そう思っているのはアタシだけじゃなく母も同じだ。


 こうやって泣き喚くアタシより辛くて泣きたいのはきっと母の方だ。


 父は天使と悪魔という障害を超えてまで共に生きてきた相手なのだから。そんな相手を置いてきた母の心境は哀しいを通り越して心がはちきれそうなはず。


 痛いくらいにわかるからアタシはそれ以上何も言えなくなった。


 溢れる涙も天使への怒りも飲み込んでぎゅっと母にしがみつく。


 父さん…無事でいて。


 アタシはただそう願うしか出来なかった。


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