白い花のバラッドⅠ
しばらくすると突然母がピタッと足を止め、
「しつっこいわね!」
と、乱暴に吐き捨ててアタシを地に下ろすと向き直り、腰をかがめ視線をアタシに合わせた。
顰められた表情には怒りがありありと見て取れる。
怪訝に思いながらも立ち尽くしていると、
「ヒカリ、あなた一人で魔界に行くのよ」
目を見開くような信じられないことを吐き出したのだ。
「え?」 と呆けた声が出るのも無理もなく、目を点にして母の言葉を反芻させてもアタシには何一つ理解できない。
一人で……?
アタシは一人で行かなければいけないの?
「母さんは…?」
茫然と呟いたのは当然の疑問。
じわりと浮かぶ嫌な予感に心臓が激しく脈打つのが嫌にリアルで気持ち悪さを覚える。
「あいつらを蹴散らしてから行くわ」
キッパリと笑いながら言い切る母の言葉に一瞬、時間が止まったような錯覚に陥った。当たってほしくない予感が的中して息がしづらくて苦しい。
「終わったらルカと迎えに行くから、それまで待っててくれる?」