白い花のバラッドⅠ



 会ったことのない姉の話なんて、今はそんなのどうでもいいのに、それでもアタシの耳は母の声を拾う。


 「あなたの名前はね、私とルカの光って意味なの 。どんな暗闇の中でも光があれば怖くないでしょう?」


 凛とした声には確かな意志が伺える。


 アタシがきっともう何を言っても母は聞いてくれないのだ。


 腕に力を込めれば、母はアタシの体を包み込んでくれた。


 「あなたも誰か大切な人ができたらその人の光になってあげるのよ。私達の光だったように」


 ふふ、と穏やかな笑みを零した母はきっと太陽に向かって咲く向日葵のようなんだろうなあ。


 母の体に顔を埋めるアタシにはそれを確認する術はない。


 「魔界に行ったらヒナタに伝えて欲しいの。あなたをおいていってごめんなさい 。それでもあなたは私達の宝よ、幸せになって、って」


 
 アタシはわかっていながら嫌だと何度も首を振った 。

 母の決意は覆ることはないと理解していても尚引き止めた。


 「……、そんなの、自分で言えばいいッ」


 これが最期だと、もう会えないような言い方をしないで。


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