白い花のバラッドⅠ

 いや、気がするとか曖昧なものじゃなくハッキリと覚えている。


 その人は目の前のこの人のように月のような雰囲気を持っていた。頭がズキズキと痛くて、目が霞んでよく見えなかったけど月のようだと感じたのは覚えている。
 

 アタシの問いかけに青年はやはり鬱陶しそうな表情を変えることなくジロリとアタシに視線をやった。


 まるで、どうでもいいだろと言いたげな顔だ。

 そして、青年が口を開こうとした時、


 「俺」


 と、全く別の声が隣から聞こえてきた。

 それは、先程の獣耳をした彼で。


 「いきなり現れてどうすればいいかわかんねえから連れてきた」


 流れる髪を耳にかけながら答えると、何故かアタシをじっと見つめた。

 嫌に真っ直ぐな視線をポカーンとして見ていると、どうしてか、呆気ないというか落胆というか、よくわからない気持ちになった。

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