白い花のバラッドⅠ
 彼はそれに何も言わずに穏やかな笑みを浮かべるだけ。


 「目付きが、枢…ユイトに…」


 あの姿が思い出された。あの射抜くような鋭い双眼で、自分を見つめるあの姿を。


 「ああ、あいつか」


 トーガは喉を鳴らしてクッと笑う。


 「気にすることじゃねえよ」


 何を言うんだろう。

 そんなこと無理に決まってるじゃないか。


 「怖えのか?」


 あの人間の姿を思い出して震えだしたアタシを見たトーガは少し声が低くなった。


 「だったら俺が殺してきてやろうか?」


 何てことを言い出すのだと、驚き目を見開いてトーガを見つめた。


 よくそんな恐ろしい言葉を容易く……。


 トーガの目は冷たくて、あの安心できた瞳ではなくて、恐怖を覚える。しかし、そんなアタシとは対象にその場に居る人は呆れを顔に表していた。

< 80 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop