白い花のバラッドⅠ
一度だけ、外の世界に出てみたくて森の終わりまで行こうとしたことがある。結局どんなに歩いても終わりはなかったが、トーガの今の話を聞いて納得した。
そんな所にいたのなら森から出ることは叶わないわけだ。
「んで、天界と魔界には天使と悪魔だけじゃなくて俺たちみてえな種族も生きてる。俺たち狼族は魔界に住む生き物なんだよ」
天界にも色んな種族がいるぞ、と付け足したトーガの丁寧な説明には感謝しなければいけないな。
トーガの毛の柔らかそうな獣耳にアタシは少しうずうずとしてしまい、
「狼…」
無意識に手を伸ばしてトーガの耳に触れていた。
思ったとおり、柔らかくてフワフワしている。
トーガはそんなアタシを穏やかに見つめ、ただ黙りながら触るのを許してくれた。