深を知る雨



「お客さんに1つ部屋を貸すけれど、その部屋には近付いちゃ駄目よ」

雪乃と知り合って半年ほどが経った頃、義母は小雪にそう言った。

ここは宿屋でもないのにどうしてかと目だけで聞き返すと、ロボットに家事を任せることが嫌いな義母は洗い物をしながら答える。

「本土へ行く交通手段が一時的に占領軍に管理されることになるみたいで、芳孝さん、帰れないのよ。誰が泊まったか分からないホテルの類もお嫌いだと言うし」
「一泊ですか?」
「多分一週間くらいかしら」

それを聞いた小雪は内心少し嬉しかった。

2人で話しているのを芳孝に見つかった日から、雪乃はもう来ないのではないかと心配していたが、雪乃は芳孝に許しを得たらしく、あれからも庭へやってきていた。

一週間も雪乃たちと同じ屋敷にいるということは、雪乃と会える機会が増えるということだ。

口元が緩むのを義母にばれないよう、小雪は義母から顔を逸らした。



しかし、雪乃は3日経ってもいつもの庭には来なかった。

貸した部屋は1つであるらしいし、許しを得たとはいえ、同じ部屋にいるあの義父の目を気にしているんだろうと小雪は想像した。


その晩、小雪はこっそり雪乃に会いに行こうと思い立ち、雪乃たちが泊まっているはずの部屋を探した。

夜ならあの義父は寝ているだろうし、上手く行けば雪乃だけを起こして一緒に話せるかもしれない――そんなことを考えたところで小雪は、自分の中にある淡い恋心を自覚する。

傍にいるのに雪乃に会えないと焦れったく感じるのは、雪乃と話したいと感じるのは、小雪が初恋をしているからであった。


学校での小雪は、教師から中学生らしくないと思われる存在だった。

勉強も運動もできる優秀な生徒ではあるが、クラスメイトとは意図的に付かず離れずの関係を築き、仲の悪い相手も仲の良い相手も作らない一匹狼。

他人に興味を抱かず、誰かと特別仲良くしようとしないその姿は、子供にしては少し不気味なところがあった。




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