深を知る雨
《15:00 Aランク寮》薫side
底辺は文句を言いながらもキッチンを掃除して帰っていった。掃除の仕方は雑だったが許容範囲だ。なかなか使えるロボットだった。いや、ロボットに失礼か。
底辺がいなくなると、遊はソファに腰を掛けて聞いてきた。
「何で連れてきたん?わざわざ寮にまで」
「お前、あいつのこと気にしてたじゃねぇか。そんなに気になんなら連れてきてやろうと思っただけだよ。ついでに掃除もしてったんだしちょうどいいだろ」
「んなこと言って、ほんまは内心浮かれてるだけちゃうん。薫に話しかけてくる奴なんてそうそうおれへんもんなー。せんどぶりにできた友達や思てるんやろ。…ッいった!いたたた地味に痛いいたたた」
空気中の水蒸気を氷に変えてぶつけると、ようやく本題に入る気になったらしく真面目な表情になった。
「…そんで、どう思うんあいつのこと」
「あんな馬鹿に売国なんて発想ができると思えねぇよ。自分のことで一杯一杯って感じ。……あ、でも、一つ言うなら東宮と知り合いっぽかったぞ」
「…東宮?Sランクの?」
「あぁ。本人は否定してたけど、何かありそうな雰囲気ではあったな」
「……ふうん」
東宮と知り合いなら昨夜Sランク寮から出てきたのも頷ける。これで遊のあいつへの疑いも晴れるだろう。
「………なぁ、俺今、薫の心読もうとしたで」
「あぁ?勝手に読もうとすんなよ」
俺の心は必要以上に読むなと言ってあるはずだ。
「うん、そうなるよな。普通怒るわな。……でもあいつ、平然としてた。まるで“読めるはずがない”って安心しきっとるみたいちゃう?」
しかし、遊は別に本当に読んだわけではなく、ただ反応を確かめたかっただけらしい。
遊の声のトーンが変わったので気になってその表情を見ると―――今まで見たこともないほど、不気味な笑顔を浮かべていた。
「暴きたくなるわぁ」
…………怖。この顔楓に見せたら逃げ出すんじゃねぇかな。
どうやらまだ底辺のことを疑っているらしい。まー売国奴とまではいかなくとも色々と隠してそうだもんな。
遊はあの底辺に興味を抱いているようだが、俺にはあいつが何を隠していようと関係ない。
――あの底辺を目的のために利用すべきか否か。
それだけが俺にとっての問題だった。