深を知る雨
「義父様………ッ!」
もう使われていない1番奥の部屋から聞こえてきた声音に、小雪はぎょっとして足を止めた。
嫌な汗が体を伝う。鼓動が速くなる。
急に重くなった足を、小雪はそれでも動かした。
―――やめろ。戻れ。それ以上関わっちゃいけない。
何よりも小雪の理性が引き返すことを命じていたのだが、それとは逆に、体は知りたがっていた。嫌な予想が的中しているのかを確認したがっていた。
まさか、とは思うが。もしかしたら、と。
襖が少し開かれていた。
音を立てないようそこまで歩き、覚悟を決めて中を見る。
「と、義父さ、義父さま……っ、」
―――とても14やそこらの少女の出す声とは思えなかった。
男を欲しがり甘える声。普段小雪が聞いていたものとは全く違う。
暗い部屋の中、月明かりだけが2人を照らす。何をしているかは明らかで。
小雪は自分の予想が当たっていたことに絶望した。
「そんなに声を出したら気付かれてしまうよ?」
「……っ、だ、だって義父様が……、」
「僕が、何かな?」
「―――ッ、ぅあっ……」
―――つい数年前まで小学生をやっていたような子供に、何てことをしているんだ。
雪乃と芳孝では20以上歳が離れているはずだ。年の差恋愛も珍しくない時代であるが、どうも恋仲のようには見えない。
何より彼は義理とはいえ雪乃の父という立場なのだ。雪乃に手を出す等許されるはずがない。
小雪は青冷めたまま走って自分の部屋に戻った。
まだ中学生である小雪は、当然ながらショックでなかなか眠れなかった。
義父と雪乃の先程の姿を頭から振り払おうとしたが、どうしても忘れられなかった。
あんな小さな身体であんな大きな男の相手をしている雪乃を可哀相だと思ったばかりではない。
衝撃的だったのはそこだけではない。
雪乃の先程の表情が何度も頭に浮かぶ。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる、気分が悪くなるほどに。
暗闇の、気付けば痛い程勃起していた自身のモノを見て、小雪は自分を汚いと思った。
(―――あんな幼い女の子が、あんな酷いことをされているのに、俺は何を考えているんだ)
小雪はその夜から、雪乃の姿を思い出しては1人で果てるようになった。
その後の罪悪感はいつもする行為の比では無かった。
しかし得られる満足感もまた、他の人間で抜いた時とは全く異なるものだった。
そのうち雪乃を想像することでしか果てられなくなった小雪は、自分はもう2度と雪乃と対面すべきではないと感じた。
出会うべきでは無かった、とすら。
義母の言うことを聞いて、雪乃が客の娘だと知った時点で関わるのを止めれば良かったのだ。
小雪は庭に近付かなくなった。
もし雪乃が庭に来たとして、どんな顔をして会えばいいのか分からなかったからだ。