深を知る雨
《20:30 Sランク寮》
この間薫たちに見つかってしまったこともあり、いつもとは違う時刻にSランク寮を訪れた私は、――何故か正座させられていた。
優雅に椅子に座って足を組みながら私を見下ろすのは魔王様。
「お前、今どのランクにいると言っていた?」
低い声で質問されビクッとする私を、脇に立つ一也は表情を変えずに見ている。
説教されてる私をいつもみたいにフォローしてくれないってことは、一也の反対も無視して超能力部隊に入ったことまだ根に持ってるんだろうか?
「…E。目立つと女だってバレるかもしれないから、影を薄くしなきゃって思って」
「何でEなんだ?お前、Eランクレベルの能力は持ってないだろ。読心能力はD、精神感応能力もDじゃなかったか?」
「何で私の持ってる能力、レベルまで全部把握してんの!?きもい!」
まるで思春期の娘が父親を嫌がるような態度を取ってしまったが、泰久は少し眉を寄せただけで構わず話を続けた。
「目立ちたくないなら一番人数の多いDランクにすれば良かっただろ」
「Eランクだと他のランクと違って能力抜きで体鍛えられるでしょ?」
泰久の言う通り、この部隊はC、Dランクの人数が1番多い。でも、そこに所属しちゃうと超能力を鍛えるのがメインの訓練になっちゃうし、私はどちらかと言えば体を鍛えたいからEランクにした。
これに関しては私の言いたいことを理解したらしい泰久は、次のお説教に入る。
「Aランクの人間と付き合いがあるようだな。大神薫と廊下を歩いていただろう。目立つことを避けようとしている人間のすることとは思えないが?」
「…別に、ただ廊下歩いてただけだし」
「“Aランクと仲の良いEランク”というだけで十分目立つ。くれぐれも…」
「……そんなに私を気にかけるのは、あの人のため?」
言い返した後でハッとして、無言になった泰久に謝った。
「…ごめん。意地悪なこと言った」
……泰久は私を心配して言ってくれてるのに、何言ってるんだろ、私。
「泰久の言うこと、その通りだと思う。今後は気をつけるよ」
泰久は私のことを自分の妹みたいに気にかけてくれてる。喜ぶべきことなのに、それを恋心が邪魔する。泰久が本当に気にかけてるのはあの人だって思うとモヤモヤする。
能力でも美しさでも心の強さでも、私はあの人に絶対に勝てないって分かってるから、余計に。
立ち上がり、部屋を出ていこうとする私を泰久は止めない。かっこよく出ていこうと思っていたのに、ドアに足をぶつけて「いたっ!」と思わず悲鳴をあげた。
「………気をつけろ」
更に格好悪いことに、泰久に注意されてしまった。
痛む足の指を押さえていると一也が私の傍にやってきて、「あちらの部屋に行きましょう」と私を抱き上げた。
「い、いいよ、ぶつけただけだし」
「そういうわけにはいきません。血が出ているかもしれない」
いや、見れば分かるでしょ出てないよ、と言おうとしたが、一也は私と2人きりで話したいのだろうということに気付き、黙った。