深を知る雨
第三章
2201.01.05
《5:00 Eランク寮》
それに気付いたのは、イタリィへ行って2日後のことだった。
洗って乾かした服の中から、エフィジオの端末が出てきたのだ。
………返すの忘れてた!!
とりあえず端末の電源を入れるが、これはどうしたものか。持ってても仕方ないし、中の情報全部読んだ後で返した方がいいかな。
能力で操作して連絡先の中からルフィーノを探し、電話をかける。
向こうは夜10時くらいだし、まだ起きてるはずだ。
『もしもし?』
「もしもーし?」
『……君かあ』
「あれ、凄い。声だけで分かったんだ?」
『女の子の声忘れるわけないでしょお?』
電話で聞いて初めて意識したけどルフィーノさん優しい声してるっすね。
「この端末さぁ、返した方がいい?」
『……』
「おーい、聞こえてる?この端末ってエフィジオ個人のもんでしょ?思い出写真とか入ってたし。返した方がいいよね、これ。あと余計なお世話かもしんないけど仕事用の端末と個人の端末は分けた方がいいと思うよ」
『……それだけえ?』
「え?」
『“イタリィにあっさり入国してきたうえおれ達から逃げた敵国の女”が電話してくるから一体どんな用事かと思ったらあ、用件はそれだけなわけえ?』
……棘のある言い方だな。
「はぁ。それだけっす」
『……いいよ。持ってて。エフィジオは新しいのもう買ったっぽいしい』
「え、でも割と大切そうな写真入ってたよ?殆ど自撮りだけど」
『いらないでしょ』
いらないかどうかを決めるのはあなたではなくエフィジオだと思うんですが……。
『それは持ってて。おれまた君とお話したいなあ』
「……私にメリットなくない?」
『なくはないでしょ。おれから情報引き出せるかもよお?』
「間に合ってます」
『間に合ってないから入国までしたんでしょお?』
「……そんなに持たせたがるほどこの端末に何か仕掛けてんの?仕掛けてても乗っ取るよ?」
『何も仕掛けてないよお。おれが個人的に魅力的な君とお話したいだけ』
……この男、ティエンに似た扱いづらさがある。
「あ、そ。じゃあお言葉に甘えて持っとくよ。暇な時にエフィジオの過去の検索履歴でも見て楽しみますかね」
『わお、悪趣味~』
「人の検索履歴ってその人の興味の対象がよく分かって楽しいからね。……じゃ、そろそろバイバイ」
訓練の準備をしなければいけないのでそれだけ言って通話を切った。
まぁ向こうはオウ゛ラのお偉いさんだし、使えないってことはないだろう。いつでも利用できる状況は悪くない。