深を知る雨
2201.01.06
《11:50 グラウンド》遊side
「里緒!そっちから叩き込め!」
「分かってるっての」
薫と里緒は、この短期間で随分協力できるようになったように見える。
SランクとA、B、Cランクの合同訓練も今日で何度目か分からない。
俺たちの訓練内容は、東宮の首にあるチェーンネックレスを奪うこと。ただし、里緒の能力でチェーンネックレス自体を動かすのは当然無しだ。
東宮に近付いて直接奪わなければならないのだが――近付くことすらままならないのが現状。
薫も里緒も、どちらかと言えば破壊に向いた能力だ。限られた物しか置かれていないグラウンドで、相手を殺すことを目的とせずに戦うのは難しい。
人を殺し、その場にある物を全て破壊してもいいと言うなら自由に動けるのだろうが、あくまでも訓練である今は、できる限りの工夫をするしかない。
それに―――いつも思うが、薫の方は訓練の時妙に手加減しているように見える。
もっと応用力のある能力のはずなのに、ワンパターンな使い方しかしない。東宮と戦うのを楽しんでいるわりには、勝とうとはしていないように見える。
と。里緒が俺のアドバイス通り動き始めた。
グラウンドから東宮の方向へと飛んでいくのは、グラウンドにあった土。
「成る程、そう利用したか。いい考えだ」
東宮は感心したように言いながら、やはり水でその土を追い返していく。
俺たちの相手をする時は、あくまでも1つの能力しか使わないつもりらしい。とはいえ、水流操作能力だけでも持続力や生産力が桁違いだ。能力が切れる瞬間があればいいのだが、東宮はずっと水を操り続けているし、同時に生み出してもいる。
俺が今まで見てきた能力者とはレベルが違う。
……これが、あのチビの幼なじみか。
チビを抱える東宮の後ろ姿を思い出す。俺の知らないチビがいて、俺の知らないチビを東宮は知っている。そんなことは当たり前で、分かっていたことのはずなのに――胸の辺りがざわざわする。
……何であのチビには、俺の能力が効かんねん。大晦日、寝てる間に記憶読んだろおもたけどそれも無理やったし。
「そろそろ昼休憩の時間だ。午後にまた集まってくれ」
昼が近付くと東宮は能力を切り、いつものようにそう指示した。
薫も里緒も疲れたようで、息を切らしながら汗を拭き、寮へと歩いていく。
俺もさっさと帰りたいところだが、……今日は楓に頼まれとることがあるんよなぁ。
俺は薫と里緒を先に行かせ、東宮の隣に立った。
「どうした?」
俺が昼飯を食べに行かないことを不審に思ったらしい東宮が聞いてくる。
残念ながら、俺は交渉を成立させるまでAランク寮には戻れない。楓に怒られそうやし。