深を知る雨
2201.01.09
《12:50 食堂》
昼休憩の時間、小雪と二人で食堂へ行くのはいつも通りの流れ。
でもここ数日ちょっと違うことがあって、
「小雪、今日もお昼抜き?」
「あー、うん。ちょっと食べる気しなくて」
小雪があんまりご飯を食べない。
「大丈夫?午後からも訓練あるのに」
「本当にやばくなったら能力でどうにかするし」
不健康なやり方だ。能力者っていっても人間なんだから人間らしい栄養の取り方をした方がいい。
「……小雪、何か最近疲れてる?」
そう聞くと、小雪は不意をつかれたような顔をした後ふにゃっと笑って私に抱き付いてきた。おいおい、ここ人いますよ。
「……この体勢は目立つんじゃなかろうか」
「男同士だから大丈夫だよ」
「男同士でもこんなガッツリハグしないんじゃないかなぁ……デキてる疑惑かけられちゃうよ?」
「もうかかってるから大丈夫」
「ぅえぇ!?」
「Cランクの奴らは俺と哀が付き合ってるって思ってるみたいだよ?もういっそ公言しちゃう?哀に変な虫が寄り付かないように」
「小雪ってたまに過保護だよね……」
「哀は俺にとって妹みたいなもんだもん。大切なのは当然でしょ?あ、哀にもし彼氏ができたら一番に報告してね?哀に相応しい奴かどうか俺が見極めるから」
なんという心配性な兄貴分。万年片想いの私に彼氏ができることは絶対にないから安心してくれ……とも言えず、苦笑いを返して予約していた席に座る。
すぐにロボットが頼んでおいた餃子を運んできてくれた。
私だけ食べるのは何だか申し訳ない気持ちになるのだが、小雪は食べてる私を見て楽しんでいるらしく、にっこにこしてる。
「……あ、そうだ」
「うん?」
「今日Cランクの訓練見に行くかもしんない。Eランク、珍しく午後から休みなんだ」
「それは嬉しいなぁ。哀が休みなら俺もサボろ」
「いや駄目だから!普通に駄目だから!」
たまに訓練参加してるかどうかのデータ書き換えてサボってる私が言えたことではないが、訓練はちゃんとやらなきゃダメだぞ!
「やっぱ疲れてんの?疲れてるからサボりたいの?」
「ううん?」
「……何かあるなら、言ってよね」
「……」
小雪は私の言葉に数秒口を閉ざした後、悲しそうな顔で聞いてきた。
「言わなかったら哀は傷付く?」
小雪が雪乃への気持ちを隠して自分一人で苦しんでた時、私は確かに怒った。
でもそれは教えてくれなかったことに対する怒りじゃない。一人で苦しんでたことへの怒りだ。同じかもしんないけど。
小雪が本気で言いたくないことなら無理に聞こうとは思わない。
でも。
「……小雪が苦しんでたら傷付く」
「俺だって、哀が苦しんだら傷付くよ」
思いの外すぐ返ってきたのは、真剣な声音だった。
「哀を苦しめることになるくらいなら、自分が苦しんだ方がいい」
「……どういう意味?」
それくらい大事に思ってる、と言いたいだけではないような空気だった。
まるで自分に言い聞かせるような言い方だった。
「……ごめん、何でもない。今日はちょっと早めに行くね」
私から視線を外し、席から立ち上がった小雪は、珍しく私を置いて食堂を出ていってしまった。
……何だあれは!何かあるの丸分かりではないか!
今度は一体何を悩んでるんだろう。もし苦しいなら相談してくれればいいのに、私じゃ頼りないのかなぁ。あの感じだと無理に聞かれたくはないようだし、相談されるまで待つか。
それまでは、言いやすい空気を作ることに徹しよう。小雪に助けを求めてもらえるように。
……それにしても、この餃子うまいな。
小雪に食欲が湧いたら、また一緒に食べたい。